第88話 岐阜城 万見邸(3)陽光②

文字数 584文字

 覆いかぶさり、
仙千代の褌の脇から手を入れ、
猛っているのを確かめた信長は、

 「雨後の竹の子よりも()う育つ」

 と満足気な調子で耳に吹き込んできた。

 仙千代が苦手だと知っている乳首も、

 「蕾のようじゃ」

 と、指先でお構いなしに(もてあそ)び、
熱い下半身を押し付けた。

 信忠につかまれた手の感触が鮮やかで、
滝での邂逅からの日々、幾度となく仙千代は、
半裸の信忠を繰り返し思い浮かべては独り寝の夜を慰めた。
 しかし信忠は美しい憧れで、
最後には信忠が信長に変ってしまう。
 仙千代の性の実態は信長だった。

 着物に焚き込められた伽羅(きゃら)の香りが芳しく、
紛れもなく信長に抱かれているのだと知れる。

 それでも、ふとした時に、
信長の面立ち、手足は信忠に似て、
褥で信長に悶える仙千代の胸を、
甘酸っぱく、微かに苦く、震わせた。

 信長の息遣いと仙千代の吐息が
一つになりつつある寸でのところで、
仙千代は無理にも意識を戻した。

 明日は大和へ出立、
しかも明けきらぬ早朝を予定していた。
 昨晩、東濃岩村から帰還して、
今日一日しか支度の猶予がない。

 仙千代は快楽を振り切った。
 信長は毛穴のひとつまで見られる明るさが一興だと言ったが、
仙千代の側にしてみれば、
興じてばかりはいられなかった。
 そもそも信長とて、
昼夜の別ははっきりしていて、
陽の高いうちから小姓や側室を相手に睦んで(ただ)れるなど、
元来、好む(たち)の男ではなかった。
 
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み