第354話 秀吉との酒宴(3)重勝の縁談②

文字数 669文字

 武家の婚姻は政略と組織形成の為であり、
そこに個々の好悪が入り込む余地はなく、
信長がここで挙がった名に了承すれば、
それで万事決着がつく。

 軽口を装った秀吉の一言から始まった
重勝の相手探しだった。
 仙千代はそこに秀吉の作為の匂いを嗅いだが、
秀吉が明智光秀と並び立つ大出世頭であることを思えば
重勝の今後を考え、
秀政の推挙を得て縁談を決めることは悪くないと考えられた。
 秀政は仙千代にとり敬うべき先達であり、
何よりもその人柄が好ましく、
また秀政と重勝は気が合うものか、
二人は時に酒を酌み交わしたり、
暇があれば同道し釣りに出たりもしているという。

 (きゅう)殿の推薦ならば間違いはない……
源吾も嬉しからずや……

 と仙千代は受け止めた。

 秀政の答えは直ちに出た。

 「今はこれという息女が見当たらぬのです。
少々前も他の口から縁談を頼まれましたが、
我が一族に年頃の娘というとこれが居らぬのです」

 秀吉が、

 「母方は伊藤なる家であったはず。
その方なれば誰ぞ居るのではないか」

 と言い、その食い下がりぶりにより、
秀吉が重勝を間に秀政と仙千代を結び付け、
自身もその輪に加わろうというのが一段と明確になった。

 「まあ、伊藤家なれば居るには居りまするが、
事情のある娘にて……」

 秀政の歯切れの悪さに信長が興味を示した。

 「ほう。久にしては珍しい。
何を言い澱む。
 その娘、如何なる事情があるというのだ」

 重勝の主たる仙千代の意志は既に離れ、
秀吉、秀政、そして信長の話になっていた。
 信長が「事情」に関心を見せたことから、
信忠、長頼、秀一も秀政に耳を向けた。

 

 

 

 


 

 

 
 
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