第430話 第三部 了に寄せて(4)

文字数 660文字

 ……山口小弁①


 山口小弁は実在の人物で、
織田信忠の小姓として記録に残されています。
 小弁の出は京都伏見の役者で、
小唄が上手かったといいます。
 拙作では周防(すおう)山口の貧民窟の生まれ、
京都伏見が本拠地の山口座の子役として登場します。

 役者といえば猿楽(能)の名のある演者であろうと、
当時は賤しい身分であるとされ、
そもそもが河原で演じ、河原に暮らしたことから、
河原者とも呼ばれ、差別の対象でもありました。
 
 山口小弁。
 享年16。
 やはり実在の高橋兄弟(虎松:信長小姓、藤丸:信忠小姓)ら、
他の小姓達同様、1582年6月、
明智軍の襲撃により命を落としました。

 実は小弁が役者として信忠に侍り、芸を披露し、
寵愛を受けていたという存在なら、
大の猿楽マニアで世阿弥の著書の原本や世阿弥の着物まで
コレクションしていたという信忠の趣味の対象としてのみ
小弁を受け止めたと思います。
 能の創始者 世阿弥と将軍 足利義満の関係に見られるように、
確かに役者が芸や美貌により大名や武将に取り立てられ、
寵愛を受けることは間々ありました。
 ところが小弁は勇猛なる働きで名を残し、
何と信長から感状さえ賜っているのです。

 芸を披露し暮らしていた童が何故、信忠の小姓に?
 役者あがりの少年が信長に感状を受ける程の槍働き。
 余りにギャップがあり過ぎます。
 感状はそうそう貰えるものではありません。
 ところが信長公にも一目置かれる戦功を上げた。
 (後述)
 そこに小弁の途方もない努力、
そして人物を見たような気がし、物語に書き込みました。


 山口小弁②へ……

 

 
 
 
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み