第226話 北陸平定戦(18)青と赤の炎⑫

文字数 608文字

 信長が長秀に呼応した。

 「例えば堅田の衆。
我が方に(くみ)すと決めれば権益を分け合い、譲り、
永らえる道を手にしたは賢明だ。
軍門に下るは易い。
下った後こそが肝要」

 仙千代とて員清(かずきよ)を知らぬわけではない。
若年とはいえこちらは側近であるから、
一武将である員清が気軽に接する機会はないが、
かつて員清が許しを請うて信長に拝謁した際、
仙千代は同席し、
複雑な地で生き延びてきた古豪の風貌に、
艱難の軌跡を読んだ覚えがあった。

 「切らせてやりますかな……腹を。
首を刎ねぬは上様の思し召し」

 と長秀が口にしたそのままを信長は認め、

 「奴も存じておるであろう、
己が生涯の果てを。
本来、四年前に失った命。
四年の歳月、励む機会を儂は与えた。
今日が限りということだ」

 命じられぬでも長頼は退席し、
暫くの後、戻ると、
員清を捕縛し刑場へ引き立てたと報らせた。

 信長は黙して頷き、長秀が、

 「奉公人は如何した」

 と長頼に質した。

 「中には明智殿の覚えの良い将が居り、
矢雨をものともせぬ武功著しい猛者、
戦功は甚だしからずとも日頃の行いが潔い者は、
命を召し出させるは惜しいかと、
一旦不問としております」

 信長は無言のままだった。
 長秀が代わって答えた。

 「それで良い。
郎党全員粛清となれば、
(すこぶ)るの不信と動揺を他の近江衆に招く。
どれが助かり、どれがそうではないのか。
己が生き残る見極めになるであろう」

 「はっ」

 長頼は顎を引き今一度、居住まいを正した。

 

 
 

 

 
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