第51話 岐阜城 古狸(2)

文字数 933文字

 三郎と舌を絡めると、
 信忠の口中に青っぽいような、甘いような、
過去に知らない風味が伝わった。

 「何やら抹香(まっこう)臭いぞ、三郎。
何だ、この味は」

 「抹香ではございません、
干した柿の葉でございます。
ついさっき、飲んでおりました」

 「いや、これは抹香じゃ」

 「抹香を召し上がったことがあるのですか」

 「また減らず口を。
封じてくれる、このように」

 竹筒を渡せ、渡さぬで(もつ)れているうちに興奮を覚えた信忠は、
三郎の口をまた吸った。

 「若殿」

 「んん、何だ」

 「勝丸を呼びましょうか、今夜は」

 信忠が褥を共にしている小姓は三郎と勝丸で、
信忠は交互に召し寄せて、
当初から一度として、
どちらかだけに傾くことはしていなかった。

 「何故」

 「先ほど、あのように生意気なことを申し、
御不興を買いました」

 「不興かどうかは儂が決める。
今日は三郎の日じゃ」

 「はい」

 「左様な気遣いは無用だ、
勝丸が良いなら良いで、遠慮などせぬ」

 「はい」

 「それとも儂の相手は嫌なのか」

 「まさか」

 信忠の手を三郎が自身の股間へ誘った。
そこははっきり反応していた。

 間近で見合った信忠に、
今度は三郎が口づけてきた。

 小姓達を次の間で待たせていることを思い出した信忠が、
口吸いの合間に、

 「下がって休め。ここはもう良い」

 と告げた。

 三郎が尚も抱き着き、
口を吸い合ったまま、
信忠の純白の小袖の帯を解いた。

 城勤めでは、
信忠の目に触れることはない下働きの娘から、
織田家の姫や側室方に仕える武家の家柄の侍女まで、
年若い数多の女御達が居て、
小耳にはさむところでは、
独り身の男子では竹丸や仙千代は当然のこと、
勝丸も美しいと評判で、
また、信長の馬廻りでありつつ仙千代の近侍を務める市江兄弟も、
見目が良いと人気があるということだった。
 三郎はというと、太っていた幼い頃は、
陰で「丸三郎」と女達には渾名され、
時に親しみ混じりに揶揄されていたらしいのが、
今では明るい人柄に加え、
爽快にして凛々しい容貌で、
結構な人気があるということだった。

 途中、寝所へ移った二人は、
旅の疲れも厭わずに、
若さが(ほとばし)るままに一度のみならず求め合い、果てた。

 「若殿」

 並んで仰向けになり、
灯かりの火が揺らめく薄暗闇の中、
気怠さを帯びた三郎の声がした。

 


 

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