第209話 北陸平定戦(1)越前へ①

文字数 700文字

 二年前、
朝倉義景、浅井長政を討ち取って、
一度は平定が成った北陸は、
ようやく平らかになるかと思えばその直後、
本願寺顕如の命により一向門徒の蜂起があって、
火種は大きく燃え上がり、
信長は柴田勝家を始め、諸将を差し向け、
鎮圧にあたらせていた。

 原田直政を守護にして、
大和を支配下に置いたことにより、
今回、大討伐戦に向け、
信長は大和、山城の国衆にも出陣を命じた。

 戦支度の連絡が交わされる中、
仙千代が、
直政の小姓、野木巻介からだと言って、

 「興福寺は此度の大和衆、山城衆の出陣を、
(すこぶ)る不快に思っておる由、(したた)めてあり、
北の遠国への出陣は浅墓なること甚だしく、
亡国の基とならぬと怒りをためておるそうでございます」

 「亡国を憂う……
ふん、それも大和一国の話。
日ノ本の安寧を見据えてではないが興福寺。
いや、興福寺の国というは、
大和どころか寺領を言うておるのやもしれぬ、
まあ、左様なところだ」

 信長とて、
今は西国へ落ちている足利義昭が、
奉じて上洛してくれと(たの)んでくるまでは、
尾張・美濃の防備と安定が第一義であって、
天下、まして日ノ本を支配の域に、
間近に迫った具体的目標として想起することはなかった。
 大名である信長でさえそうなのだから、
寺が寺を護ることに汲々とするのは当然だとして、
それでも寺社に甘い顔をしていては、
大和も何処も、治まらぬのが実際で、
現に北陸で一向一揆は燃え盛り、
顕如率いる本願寺は権益を手離すまいと門徒を使い、
激しい抵抗を緩めなかった。

 「まさに。
寺と寺で争って仏法の名のもとに、
焼き討ち、略奪、人身売買、
いかに繰り返しておりますことか」

 仙千代は信長の発令に何通も副状(そえじょう)を書き進め、
相手をしていた。
 

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