第58話 岩村城攻め(2)公居館②

文字数 832文字

 「岩村では水晶山に陣を敷く。
先般、街道整備を担った坂井、
河野らが先遣隊として向かい、
普請は始まっている。
竹丸は明日にも発って合流し、
堀の造成や建屋構築にあたるのだ」

 竹丸は今年の冬、
四人の奉行衆に従って領国の街道を整える為、
長く岐阜を不在にしていた。

 今回、岩村城攻めを主目的とした東濃攻略は、
信忠軍が三万規模であることからしても、
容易い作戦ではなく、
一月(ひとつき)で片が付くのか、
いや半年、またはそれ以上なのか、
見込みは正確に立っておらず、
岩村城を望む水晶山本陣は、
長期使用に耐える本格的な陣城造営が要求された。

 「はっ!鋭意専心をもって相務めまする!」

 竹丸は普請、作事に対する、
かねてからの興味と学びを生かし、
志多羅では野戦城建設に主導的立場で携わり、
信長の賛辞を受けていた。

 仙千代は、
竹丸が強く関心を抱く方面に力を発揮している姿を、
眩く眺め、我が事のように嬉しく思った。

 竹丸は我が真の友、
竹が居なければ今の儂も居なかった、
竹の出世は儂の出世じゃ、
竹は儂に教え、導いた、儂も竹を支える!……

 岐阜の城には百人とも、
それ以上とも小姓が居るが、
同年配で側近として残った小姓は、
竹丸と仙千代だった。
 同じ道筋を歩んできたのが堀秀政で、
織田家に先々代から仕える菅谷長頼を秀政は慕い、
竹丸と仙千代は秀政を倣って過ごした。

 「竹丸は岩村城が落ちるまで、
水晶山本陣に張り付いて、
我が軍が有利になるよう一帯を調べ上げ、
道も砦も管理するのだ」

 「ははっ!」

 つまりそれは戦奉行と称される立場で、
本隊より先行して合戦場所を見極め、
合戦中も陣形の組み直しを進言する役を担う
非常に重要な役職だった。

 「此度、合戦となるか、ならぬか、
断言はできぬ。
城攻めとなれば長期戦となるは必定。
見逃してはならぬのは敵の補給路を断つことだ。
抜け目のない徳川は高天神城に向け、
そこへ着手しておる」

 信長の眼が一瞬、光った。

 「浜松はああ見えて図太いところがある」

 信長に誰もが傾聴し、全身を耳にしていた。







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