第19話 龍城(13)騒擾⑦

文字数 930文字

 いよいよ城兵が引き立てられようかという時、
今度は信忠が現れた。
 三郎ら、近侍を伴っていて、
何故か弟 信雄(のぶかつ)も居た。

 そうか、若殿のみならず、
御兄弟揃って徳川兵に悪し様に……

 仙千代は織田家の嫡男と二男を迎えると、
信忠、信雄の傍へ立ち位置を変えた。
 勝丸も城兵の大小を持ったまま、
仙千代に付いた。

 信康は兵を処分する前に、
騒動を知られることを危惧していたが、
手遅れとなった格好だった。

 痛打を浴びた城兵は地べたに転がされ、
信康が足裏で踏み付けていた。

 信忠の登場に信康が、

 「出羽介(でわのすけ)様!」

 と顔色を変えて発すると、
信康の近侍達が兵を起こして強く抑え、
と同時に、
追従(ついしょう)組の若い四人も一括りで引っ張られてきた。
 中には十三、四才かと思われる者も居て、
四人はもちろん、丸腰にさせられている。
 
 信康達は身を低くして(こうべ)を垂れた。

 「申し訳ございませぬ!
我が兵の不埒極まる無礼の数々、
弁明の余地はありませぬ!」

 信忠はただ五人を見遣った。

 このような時の信忠は、
澄んだ眼光が信長を思わせ、
つい固唾を飲ませるものがあった。
 これもまた信長譲りの鼻梁の高い端正な面立ち、
整っているだけに黙していると何を考えているのか
察することは難しかった。

 「亡状の段、ひたすら心苦しく、
万回詫びても詫び足りませぬ」

 信忠が訊いた。

 「委細は耳にしておらぬ。
その者は何を申した」

 一同、静まり返った。

 「まあ、良い。察しはつく」

 「直ちに首を刎ねさせます故!
残り四人も連座の(とが)は否めませず、
やはり同様に致す所存」

 五人の行いは確かに軽薄極まるものだった。
信長が徳川の地、三河の安定の為、
どれほどの時、財、人を費やしたのか、
それを思えば城兵のしたことは、
単なる誹謗中傷として留めるわけにはいかなった。
 信康が厳しい処置に出ることは想定の内である上、
事実上の主家格に当たる織田家の後継に侮辱を加えたのであるから
足軽とはいえ農兵でも雑兵でもない以上、
武辺に生きる者として一命をもって償うことは、
けして重い(ととが)とは言えず、
当然の帰結ではあった。

 立った信康が五人を、
連れて行けとばかりに顎をしゃくった。

 その時、
(はべ)る三郎が信忠に耳打ちをした。

 信忠は僅か一瞬思案を見せたが、

 「待て」

 と命じた。

 

 

 
 





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