第177話 蹴鞠の会(15)長秀の名誉⑨

文字数 621文字

 長秀は真情を吐露した。
 
 自身に比べ、
信長の臣下となって日の浅い明智光秀、
一世代も下の羽柴秀吉、
昨今特に二人の活躍は瞠目、驚嘆すべきものがあり、
畿内の要衝地で一国の主になったことも
その功を思えば当然の帰結と言え、
二人に対する信長の期待もまた然りである、
しかし光秀、秀吉に先んじて国を賜った自分は、
果たしてどうか、
若狭の本願寺勢力に圧を加える役目を帯びつつも、
単独の軍事行動を任されることはなく、
合同作戦や補佐に徹する任務が続き、
政務に於いても近頃は菅谷長頼、堀秀政ら、
若手の台頭が目覚ましく、
特に志多羅(したら)、長篠の合戦以降、
ともすれば無聊をかこち、
結果、恩顧に報いていないのではないか、
そのような自分が官位を賜るなどは論外であって、
およそ受け入れられはしない、
という訴えだった。

 「佐和山を任せた時も五郎左は、
喜色と戸惑いが混じっておった。
それは儂も気付いておった。
だが、人にはそれぞれ役割がある。
向き、不向きもある。
それが分からぬとは青さを残しておるな。
そろそろ白髪も生えようというに」

 「とうの昔、
白髪は時に顔を出しております」

 「そうか」

 「抜いておるのです、
老け込んで映るのは嫌です故に」

 「であるか。
抜き過ぎは髷を結えなくなるぞ」

 「そこまで生えてはおりませぬ」

 「うむ」

 深刻な話が一気に何やら(とぼ)けたような会話になって、
仙千代は口元が笑いで緩むのを堪えた。
 二人のこのようなやり取りに慣れているのか信定は、
神妙な表情を崩さずにいた。



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