第112話 相国寺(4)将軍の子④
文字数 672文字
秀吉は義昭の信長への謀反は許し難く、
悪の頭目であるとして丁重に扱うことをせず、
自業自得を知るべきであると言い、
将軍の髪の乱れも汚れた着衣もそのままにした。
それは敗者というより咎人 の扱いだった。
信長の力で上洛を果たし、
竈 の火は信長の援けで燃えているのに、
古参の家臣の横領まがいの蓄財や、
義昭が寵愛している若衆の横暴など、
目に余る腐敗を信長が十七カ条もの長文で意見書を出し、
辛抱強く説いてみせても幕府の体質に改善は見られず、
義昭は放置して、
あろうことか、信長に刃を向けた。
本来、腹を召し出せと言われても致し方のない義昭だった。
秀吉は信長の怒りの炎を受け取ると、
劫火 に変えて、将軍に罰を与えた。
義昭は留置き先の若江城への道すがら、
惨めな姿を路頭に晒し、人々に、
乞食将軍、貧乏将軍と揶揄されて、嘲笑 られた。
自らの忘恩で負け戦を喫し、
自軍の将兵に数多の死者を出した上、
織田軍にも被害を与えた義昭にかける情けは無いとばかりの秀吉は、
義昭に極めて冷淡、尊大だった。
虜囚となった将軍一家が真木島を発つ時、
義昭の子、義尊に対して仙千代は、
顔を覚えておくべきだという気が働いて、
赤子の乳母や側仕え衆の世話を買って出た。
仙千代は秀吉の顔色を気にしなかった。
真木島合戦当時、
仙千代は小姓になって二年目の新米だったが、
義尊と思われる乳呑児の頬が何処で触れたか、
煤 を浴び、黒ずんで、
乳母の髪が焦げているのを目にした時に、
善悪も上下も忘れ、近寄って、
信長の為に潜ませていた純白のさらしの手拭いを渡した。
怨敵の小姓に対し、
乳母の顏に憎悪が滲んだ。
悪の頭目であるとして丁重に扱うことをせず、
自業自得を知るべきであると言い、
将軍の髪の乱れも汚れた着衣もそのままにした。
それは敗者というより
信長の力で上洛を果たし、
古参の家臣の横領まがいの蓄財や、
義昭が寵愛している若衆の横暴など、
目に余る腐敗を信長が十七カ条もの長文で意見書を出し、
辛抱強く説いてみせても幕府の体質に改善は見られず、
義昭は放置して、
あろうことか、信長に刃を向けた。
本来、腹を召し出せと言われても致し方のない義昭だった。
秀吉は信長の怒りの炎を受け取ると、
義昭は留置き先の若江城への道すがら、
惨めな姿を路頭に晒し、人々に、
乞食将軍、貧乏将軍と揶揄されて、
自らの忘恩で負け戦を喫し、
自軍の将兵に数多の死者を出した上、
織田軍にも被害を与えた義昭にかける情けは無いとばかりの秀吉は、
義昭に極めて冷淡、尊大だった。
虜囚となった将軍一家が真木島を発つ時、
義昭の子、義尊に対して仙千代は、
顔を覚えておくべきだという気が働いて、
赤子の乳母や側仕え衆の世話を買って出た。
仙千代は秀吉の顔色を気にしなかった。
真木島合戦当時、
仙千代は小姓になって二年目の新米だったが、
義尊と思われる乳呑児の頬が何処で触れたか、
乳母の髪が焦げているのを目にした時に、
善悪も上下も忘れ、近寄って、
信長の為に潜ませていた純白のさらしの手拭いを渡した。
怨敵の小姓に対し、
乳母の顏に憎悪が滲んだ。