第111話 相国寺(3)将軍の子③

文字数 677文字

 巻介は何故、仙千代を曲者と評すのか、
そこは後回しにして、まずは、

 「興福寺には、
地侍衆の二男三男も大勢入っておるが、
貴顕の子弟も少なからず。
義尊は中でも、
上様、朝廷、興福寺、幕府という難しい渦の中にある幼君。
寺にしてみれば秘蔵の宝のようなもの。
秘して、容易には見せぬ。
左様な扱いなのではないか」

 と分析した。

 仙千代が、

 「それでは健勝であるのか、
もしや病がちであるのか分からぬではないか」

 「そうだ。
子が健やかに育つには幾多の関門がある。
八十八と書く米と同じ位に。
万一にも亡くなって、
身代わりが育てられても長じた後では判別がつかん」

 「で、あろう?
真木島での戦火を生き延びたあの幼君が、
如何に暮らしておられるものか、
好奇心が抑えられん、儂は」

 仙千代と巻介は時に手紙(ふみ)を交わし合い、
戦場や典礼の場で顔を合わせれば、
(いとま)を見付けて旧交を温める仲ではあるが、
数ヶ月、半年と口をきかない期間が続くこともある。
 それでもこうして会えば、
竹丸や秀政を相手にするように、
遅滞なく話は進んだ。

 「果たして仙千代が、
野次馬根性で言うのか、
いや、そうではないのか、
まあ、そこは今は横へ置くとして、
仙は将軍が敗北し、処せられた際、
若公の姿を見ておるのであろう?」

 若公とは義尊のかつての敬称だった。

 「敗戦の将軍は、
羽柴藤吉郎殿が差配した警護により河内若江城へ向かった。
真木島での出立時、若公の尊顔は焼き付けた」

 巻介は仙千代に得心するかのように頷いた。
 このような時、
日頃、顔色のすぐれない巻介が、
仙千代の何を面白がるのか、
血色を取り戻し、目が輝いて生き生きしていた。
 
 
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