第160話 雷神と山中の猿(11)光と影①
文字数 509文字
父子ほど齢は違いつつ、
母方の縁戚を通じ、
秀吉の従弟 にあたる市松は、
秀吉ゆずりか、快活な子だった。
「上様は他の時も領内で、
昼日中から畑で寝そべっている百姓を見て、
我が殿がけしからぬと叱りに行こうとしたところ、
いや、藤吉郎、
儂の領地では百姓が日中に寝ておられる程に
豊かであるということだ、
叱責には及ばぬ、
寝かせておけと仰ったとか。
左様なことが重なるのを見て、
羽柴の殿は上様のお優しさを知り、
大らかなる御性格は亡き大殿譲りにて、
なればこそ、
上様の国は栄えるのだと感心しておりました」
佐吉、夜叉若は幾らか不安を滲ませ、
市松の言を聴いていた。
「ただ、殿は斯様にも申しておりました。
上様は真の底辺の暮らしを存知あそばされぬ、
生まれながらに貧しい者が如何なる心を抱いて育つのか、
成人した後も魂は変わらず、
少しでも上を、
少しでも多くと望み、
渇望して生きる。
その心根を侮り、
甘く見てはならぬということを、
上様は分かっておられぬ、
上様は光に包まれた御方ゆえ、
影の濃さを御存知あそばされぬ、
可愛がっていただいているこの藤吉郎は、
上様のお優しさを危ぶむことがないではないのだと」
佐吉はごくりと唾を飲んだ。
夜叉若は顔を青くした。
母方の縁戚を通じ、
秀吉の
秀吉ゆずりか、快活な子だった。
「上様は他の時も領内で、
昼日中から畑で寝そべっている百姓を見て、
我が殿がけしからぬと叱りに行こうとしたところ、
いや、藤吉郎、
儂の領地では百姓が日中に寝ておられる程に
豊かであるということだ、
叱責には及ばぬ、
寝かせておけと仰ったとか。
左様なことが重なるのを見て、
羽柴の殿は上様のお優しさを知り、
大らかなる御性格は亡き大殿譲りにて、
なればこそ、
上様の国は栄えるのだと感心しておりました」
佐吉、夜叉若は幾らか不安を滲ませ、
市松の言を聴いていた。
「ただ、殿は斯様にも申しておりました。
上様は真の底辺の暮らしを存知あそばされぬ、
生まれながらに貧しい者が如何なる心を抱いて育つのか、
成人した後も魂は変わらず、
少しでも上を、
少しでも多くと望み、
渇望して生きる。
その心根を侮り、
甘く見てはならぬということを、
上様は分かっておられぬ、
上様は光に包まれた御方ゆえ、
影の濃さを御存知あそばされぬ、
可愛がっていただいているこの藤吉郎は、
上様のお優しさを危ぶむことがないではないのだと」
佐吉はごくりと唾を飲んだ。
夜叉若は顔を青くした。