第244話 勝家への訓令(2)掟②

文字数 699文字

 秀政は墨も乾かぬ発令書を手に取った。

 「仙も存じておろう、
朝倉義景、浅井長政が滅び、
北陸本格平定に乗り出すという時、
朝倉、浅井の滅亡を待っていたかのように、
一向宗は火の手を上げた。
 確かにこの地は朝倉家が治めていた。
が、実態は二重構造で、
一向門徒の巣窟は義景の力が及ばず、
懐に手を入れるどころか法さえ届かず、
一向宗は自分達の為にだけ財を用い、
その金で武器を買い、
信者の国を越前国内に建てていた。
 山、海、川は君主も領民も等しく誰も、
それにより生かされている。
 だのに、門徒は独占し、我が物として、
排他的な国を国の中に打ち立てている。
 其は門徒衆以外、
人ではないと言っているのと同じ。
片や(うつつ)に目をやれば、
此度の加賀でも(むしろ)旗には赤い字で、
進めば極楽、引けば地獄と拙い文字が書かれてあって、
いったいこの者達は何を信じ、
何に向かって進んでいるのかと……」

 秀政の手に力がこもり、
あわや書状が破損するのではないかと仙千代は、
つい(みは)ったが、黙して聴いた。

 「源吾が先日、申しておった。
上様の国では本願寺一揆は起こっておらず、
寺領は安堵され、
民草の心の拠り所となって、
誰も安んじて念仏を唱えておると。
 武家に生まれたでもない者が、
命を捨ててまで守るのは果たして何か」

 武将同士の戦では、
勝敗が決まれば戦後処理となり、
規定通りに万事が進む。
 しかし宗教勢力、わけても一向宗は、
こちらを倒せばあちらで蜂起し、
討っても討っても湧いて出て、
終わりがなかった。

 秀政が語る心情は、
今現在、越前を平定したかに見えるこの様も、
一年後、いや、数ヶ月先の予断は許さず、
それが為、
信長が勝家に仔細な指示を与えたのだと言っていた。


 
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