第337話 山口座(1)終演

文字数 467文字

 演目すべて終了すると和尚がやって来て、
観衆に向け、

 「本日は御殿様が御観劇あそばされ、
計らずも我が寺へお越し召され、
これも御仏の御縁かとまこと有り難く、
居合わせた皆の衆も生涯の僥倖として受け止めなされ」

 と言い、数珠の手を胸元で合わせ、
南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏と数回唱え、
信忠にも腰を折った。
 境内の皆々も信忠に向かい、
いったん頭を垂れつつも誰彼ともなく、

 「新しい殿様じゃ、
御当主にお成りあそばされたのじゃ」

 「岐阜の殿は今や上様、
若殿様は御当主に!」

 「新しい殿様!」

 「岐阜の殿!岐阜の殿!」

 「岐阜は日の本一、幸せな国じゃ!」

 「岐阜の殿!」

 「岐阜の殿!」

 と歓呼が起こり、
信忠は笑顔を向けた後、和尚に、

 「儂こそ面白いものを見せてもらった。
特に馬追歌、田植歌、稲刈歌、木こり歌。
民の働きぶり、暮らしぶりが目に浮かぶようで
興味深かった。
 まさに御仏の御縁。
有り難きはむしろこちらじゃ。
 仏様に参らせていただこう」

 と言って、三郎ら、近侍を伴い、
本堂へ入って行った。

 仙千代ら、信長の小姓は本堂前から礼拝し、
帰途についた。


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