第202話 楚根城(5)『鞍馬天狗』①

文字数 1,203文字

 以下の能作品『鞍馬天狗』は、
演能団体「銕仙会」様の解説をもとに、
筋立てを記しています。
 他にも『鞍馬天狗』は作品があるようで、
どれもが貴種流離と英雄譚、
衆道の契りという彩に満ちた、
華やかにして味わい深いもので、
義経物として、
長く人気を博しているのだそうです。

 作者:注

 
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 猿楽『鞍馬天狗』は、
牛若丸こと源義経と山伏の深交が描かれた演目で、
実は大天狗の化身である山伏が
牛若丸に武術の奥義を施し、
修行に耐えた牛若丸がやがて還俗し、
若武者となって源氏の再興へ向かうという、
いかにも武家好みの作品だった。

 ……春の鞍馬山。
 とある山伏が花見の宴の開催を聞き付け、
見物に出掛けた。
 
 鞍馬寺の高僧達はそれぞれ稚児を伴って、
艶やかな花の宴を楽しんでいる。
 僧達は山伏が潜んでいたことに気が付くと、
稚児が平家の貴顕の子弟である為に、
場違いな山伏の前に稚児を晒し、
危険な目に遭わすわけにはいかないとして、
悩ましくも宴を取りやめ、立ち去ってしまう。

 そこに一人だけ残された稚児が居た。
 
 花も鳥も美しさは、
貴賤の隔てなく誰のものでもあるはずだのに、
何と了見の狭いことかと僧達の振舞を嘆く山伏に、
置き去りにされた稚児が声を掛け、慰めた。
 その優しさに触れた山伏は
稚児に特別な思いを抱き、
それが平治の乱で敗死した源義朝の子、
遮那王(しゃなおう)こと牛若丸であると察する。
 
 牛若丸は、
他の稚児は平家一門の子で暮らしは華やか、
大切にされている、
自分はその外にあって不遇であると嘆いた。
 牛若丸は学問に勤しむよう、
遮那王と名乗り、
鞍馬寺に留め置かれていたのだった。
 
 孤独な牛若丸を、
山奥で誰にも知られず咲く花のよう、
もし咲く時が違っていたならば、
人々に賞玩されていたであろうにと、
哀れを誘われた山伏は、
牛若丸の手を引きつつ山奥へと連れてゆく。
 山伏は、花の名所は他にもあるのだと、
愛宕、高雄、吉野とあらゆる山々を巡り、
晴れやかな広い世界を見せてやるのだった。

 二人が鞍馬へ帰ると牛若丸は、
これ程までにしてくれる山伏に
名を明かしてほしいと願う。
 山伏は我こそ鞍馬山に古くから住む
大天狗であると身分を明かした。
 そして、山伏は、
牛若丸こそ大天狗が兵法を伝授し、
驕る平家を滅ぼすべき者なのだと告げ、
山奥に飛び去って行った。
 
 時を経て、
厳しい修練を続ける牛若丸の前に、
小天狗達が現れる。
 小天狗達は師である大天狗に密かに命じられ、
牛若丸の稽古相手として呼ばれたのだった。
 一同は相手になることを怖がりながらも
牛若丸のもとへ果敢に向かってゆく。

 翌日。
 桜色の衣に武具を纏った凛々しくも優美な牛若丸。
 そこへ出現したのは、
国々の名だたる天狗達を従えた大天狗の威風ある姿。
 天狗達の大音声(だいおんじょう)は峰々に響き、
山を揺るがせた。

 大天狗は小天狗達との剣術稽古が手ぬるいと、
牛若丸を叱るのだった。

 

 
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