第243話 勝家への訓令(1)掟①

文字数 962文字

 北庄(きたのしょう)に滞在した間、
越前国の領主となった柴田勝家に信長は訓戒を与えた。
 それは他の家臣に領土を与えた際には見られない事例で、
非常に事細かなものだった。
 

 一、
 不法な税を課してはならない。
 当面の事情があって賦課しなくてはならない場合は
信長に相談せよ。
 
 一、
 知行を許された地侍達を丁重に扱うこと。
 だからといって警戒しなくても良いのではなく、
砦々の構築、整備は肝要である。

 一、 
 争いごとは双方を公平に扱い、
不当な判決を下してはならない。
 当事者を納得させることができぬ時には信長に伺いを出し、
指示に従うこと。

 一、
 公家、寺社が所有していた旧領地は、
元の持主に返還すること。
 ただし朱印状など、法的正当性が重要である。

 一、
 関所は撤廃すること。

 一、
 大国を支配させるのであるから、
万事にあって留意し、
油断があってはならない。
 武具、兵糧は、
五年分、十年分でも備蓄に努め、
怠ってはならない。
 私欲を避け、正しく税を課して、
行政に当たるよう心掛けよ。
 児童を寵愛すること、手猿楽、遊興、
見物などは禁止すること。
 
 一、
 鷹狩りは禁止する。
 ただし地形を見るのに必要な時はしても良い。
 子供が遊びで行うことは禁止するまでもない。

 一、
 家臣達に後に与えるべく、
領地に直轄領を残しておくこと。
 家臣達は武功に励んでも恩賞が無いと思えば、
武勇も忠義も形だけにものになるであろう。
 そこのところをよく認識すること。

 一、
 何事につけ信長の指図に従うよう覚悟すること。
 だからといって指図に無理、非法があるのに、
言葉巧みに上辺だけ取り繕ってはならない。
 何らかの差支えがあれば弁明するが良い。
 理には従うつもりでいる。
 ひたすら信長を崇敬し、
当方から見えないところだからといって気を抜き、
軽々しく思ってはならない。
 信長の居る方向へは足も向けないよう
心がけることが必要である。
 そのように心がければ武士としての加護があり、
武運末長いことであろう。
 よくよく留意せよ。


 信長の口上を書き留めた仙千代は、
清書を終えると墨の乾きを待って、
今一度、一言一句を追った。
 陣には訪問者が絶えず、
信長は慌ただしく去っていた。

 仙千代は秀政に、

 「柴田殿が初めてですね、
国の経営で斯様に細かな御指示を頂戴するのは」

 と言った。

 

 

 

 

 
 
 
 



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