第115話 相国寺(7)将軍の子⑦

文字数 590文字

 ……巻介は仙千代が何故、
真木島で義尊の顏形を気にし、確認したか、
大和での滞在時、面白がった。

 「巻も、そうするのではないか?
あの場に居ったら」

 「赤子が如何なる面立ちに育つのか、
無論、分からん。
だが、特徴があれば儲けものだ。
以後、それがその子の印となる」

 「義尊殿には印があった」

 「印?」

 「右目の脇に小さな黒子(ほくろ)が」

 巻介はにんまり笑い、仙千代の背中を叩いた。

 「運が良いな、仙千代!
無印であったなら、
別の子に万一すり替わっても区別がつかん。
ところが黒子とは」

 「しかも三つ並んでおった。小さな黒子が」

 「それはまた!珍しい」

 この会話を交わした後、
(ばん)家の馬廻りや巻介共々、
興福寺を訪れた仙千代は、
守護となった直政に万事協力すること、
仏の権威を無闇に誇示し、
強訴という手段に出てはならず、
信長を素通りして、
帝に何某か要求することも今後まかりならぬという
主の言葉を伝えた。

 応対者である僧正は、
興福寺の権益を侵すものとして信長を認識し、
不快感を隠さなかった。

 興福寺、いや、大和の寺社には義尊のみならず、
代々、連綿と貴人の子息が入っている。
 禁裏との縁も、当然深い。
 信長が大和の旧勢力による帝への直談判を禁じた理由は、
信長という実効権力者を差し置いて物を決めるな、
先帝の葬儀や親王の加冠の儀さえ行えずにいた窮乏の朝廷に、
暮らしの礎を支えているのは誰かと示威する戒めだった。
 

 
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