第296話 女城主(3)六大夫②

文字数 637文字

 信長の急く気質を知っている元助が結論を述べた。

 「嫡子、六大夫は、
鋭意、探索を続行しており、
総大将の命により副将が秋山虎繫、
岩村殿、家老 大嶋長利、座光寺貞房を、
厳しい監視下に置いております。
 六大夫発見の後、こちらへ移送すべく、
準備を整えておる次第にて。
 総大将は、
六大夫の姿が無いことは礼を弁えぬことであり、
まこと、けしからぬ、
家臣の一存で逃したものであろうとも当たり前のこと、
責は虎繁にあり他の誰が負うものでもない、
故に虎繁一家、及び宿老二名、
厳格なる評定を上様直々賜ることとして、
岐阜へ送還の沙汰とする、
ただし、生死の行方を保証せぬまま送ろうものなら、
道中、不穏の危険を重ねかねず、
いったん、赦免の態にて出立させる、と。
 副将も御明察であると同意されました」

 元助の父、恒興は信長には乳兄弟で、
それぞれに乳母がついた実の兄弟とは異なり、
共に育ち、
幼い頃から今に至るまで知っており、
元助に若き日の恒興の面影を見るようで、
如何なる時も真の親しみが元助にはあった。
 
 岩村を奪還すべく、
小里の出城を任された恒興が半年前、長篠へ出征後、
父に代わって城を守り、水晶山の後詰を果たした元助は、
元服前と比較して雄々しく成長し、
若武者姿に信長の目は細まった。
 
 今回わけても難渋な戦後処理の使者に元助を選ぶとは、
信忠の元助への期待の表れであり、
信忠の人事の絶妙に捨て置けぬものを感じ、
信長は、いや、親だからこそ甘い顔はできぬ、
天下を継ぐべき信忠に甘い顔は許されぬと、
自らを戒めた。
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