第155話 雷神と山中の猿(6)秘宝①

文字数 639文字

 「国の宝とでもいうべき仏様達を拝ませていただく機会、
果たして有るや無しや。
上様の遣いとはいえ、いや、なればこそ、
儂もけして好かれてはおらぬ模様」

 「とはいえ初めて訪れた興福寺で、
義尊殿と同席されたとか」

 仙千代は内心、苦笑した。

 成程、これこそ羽柴家の御小姓……
若公に目通りを許された件、
もう耳に入れておるとは……

 「足利家の御嫡子なれば、
それこそ義尊殿は秘蔵の宝、
小さな生き仏。
よくぞ面会を叶えられた、
如何なる手管で義尊殿を引きずり出したか、
威圧も無しの身一つでありながら流石は仙殿と、
我が殿が感嘆しきりでございました」

 佐吉の口調は淡々としていた。
秀吉が何を思ってか、
ことさら大袈裟に仙千代を褒めほやそうと、
伝える佐吉は淡い態度で、
仙千代は佐吉の実直にして
粉飾を好まぬ性分を好ましく見た。

 市松が、

 「我らの殿は万見様に、
やはり上様が見込まれただけのことはある、
たいしたものだと感心しておりました」

 と明るく付け加えた。

 確かに信長も、
仙千代が義尊と会したことは大和で噂となって、
仙千代の存在を高め、箔になると言い、
手柄扱いをした。

 「真木島合戦で、(たま)さか、
義尊殿の乳母殿や従者を知る機会があり、
若い従者は義尊殿と共に入道し、
剃髪の身となっていた。
この世は奇縁で結ばれておると感じた次第にて、
奇縁以外の何でもないこと」

 夜叉若は、

 「(えにし)は大切なものなのですね。
巡り巡って我が身に返る」

 と何某か思いを巡らせ、
仙千代の胸中を察するように感じ入った。

 
 

 

 
 



 


 

 
 

 



 

 

 

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