第239話 越前国(10)加賀への援軍①

文字数 657文字

 仙千代は、

 丹羽殿、稲葉殿はじめ、
御歴々は既に帰路へつき、
取って返すに間に合わぬ、
上様が仰せの通り、
ここは柴田殿しか援軍は見当たらぬ……

 と考えた。
 勝家軍の疲弊は著しく、
一向門徒と戦った二年の辛苦が隠せもしない有様だったが、
北陸の主となったからには行く他はない。

 歴史上、
令制国の中で最後に建てられた加賀の国は、
国司の往還の難儀な地域で、
民と官の距離が遠くにあって、
訴えは届かず、
時の流れはいつしか一向宗の聖域となり、
守護 富樫氏は滅ぼされ、
一揆勢は治外の国を打ち立てていた。

 勝家に使者を向かわせよという下知の後ながら、
いかにもすんなり秀政が入った。

 「羽柴殿が左様に申し立てられるのでありますれば、
柴田殿の援護は無用。
むしろ士気に水を差しかねませぬ。
猛将 柴田殿が加勢されるとなれば、
羽柴殿の感興は冷まされかねず、
二軍の間に齟齬が生じるやもしれませぬ」

 信長が下した命への反論とも受け取られかねない発言をして、
怒声を浴びるどころか
不興めいた顔さえ向けられず済むのは
秀政が信長の気を読むのに長けているからで、
今の信長は秀吉の強気な積極姿勢に爽快を覚え、
(すこぶ)る機嫌が良いのは仙千代も見て取っていた。
 
 敢えて仙千代は反論してみせた。

 「さりとて、有象無象(うぞうむぞう)の百姓軍とて、
長島に匹敵しようかという一向宗の地でありますれば、
羽柴軍に致命的な痛手を与えかねず、
さすれば懲りもせず不届き者達が呼応して、
反転攻勢に打って出る危険が無きにしも非ず。
柴田殿は北の地勢に長けておられる。
何より上様の命なれば、ここは柴田殿に是非」

 
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