第193話 常楽寺(4)筑前守④

文字数 604文字

 「如何なる魂胆を抱えておる」

 回転の早さでは他に並ぶ者が居ないような男が、
多弁にして空疎な言葉を連ねていたのだから、
信長のみならず仙千代も、
秀吉の真意は何であるのか焦れていた。

 「しからば!」

 蜘蛛の如くの態で素早く一身を信長から離し、
またしても秀吉は極端にまで低頭すると、

 「安土の御城の縄張り奉行!
是非にも任じて頂きたく、
何卒何卒、お願い申し上げ奉ります!」

 と大音声(だいおんじょう)を響かせた。

 城造りの華が縄張り奉行、
それを、佐久間殿、柴田殿を差し置き、
明智殿も振り切って、
羽柴殿は最高の契機を見計らい、
自ら訴え出られた!……

 仙千代は信長に侍り、
涼しい顔を通しながらも内心は、

 羽柴殿、一世一代の踏ん張りどころ!
天下の名城の御奉行として名を刻むかどうか、
今この時に決まる!……

 と唾を飲んだ。

 石田佐吉は秀吉以上に平伏し、
ひたすら額を床にこすりつけていた。

 信長が新たな城を築くにあたり、
秀吉の今日に至るまでの地ならしは完璧と言えるものだった。
 安土に蔓延(はびこ)っていた六角家の残党を討伐の上、
罰するべきは罰し、
詫びを入れさせ多くを助命し、
長浜城下に住まわせて配下の戦力とした。
 また、信長肝入りの大事業、
瀬田川に橋が架かるとなれば幾度も足を運び、
山岡景隆、木村高重という
橋を任された奉行達に援助を申し出、
大いに助け、難工事の実際を学びもした。
 景隆、高重の両名は普請、作事に長け、
当然、安土築城の主戦力でもあった。

 


ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み