第171話 蹴鞠会(9)長秀の名誉③

文字数 669文字

 蹴鞠会の夜、長秀、信定主従は佐和山に戻らず、
信長の宿舎、相国寺に宿泊した。

 そこで信長は、
御所で帝から盃を頂戴した際、
官位昇進が伝えられたが自身は受け取らず、
功績多大であった織田家の長老衆のうち、
松井友閑は宮内卿法印、
武井夕庵(せきあん)は二位の法印、
村井貞勝は長門守(ながとのかみ)
梁田(やなだ)広正は別喜(べっき)右近、
(ばん)直政は原田姓、
明智光秀は惟任(これとう)の名と日向守(ひょうがのかみ)として推挙し、
後日正式に勅諚(ちょくじょう)が下されるであろうと言った。

 官位を得たり、
位が上がったからと厳密には名目であり、
むしろ御礼を献上せねばならず、
持ち出しが多いが、
立場を飾る誉れであることは無論、
政治的、軍事的には箔がついて大いに役立ち、
授けてやると言われ要らぬという武将はまず居なかった。

 「上様は何故、御遠慮されたのです」

 最年長の信定が誰もが抱く疑問を訊ねた。

 「老体の松井と武井は別として、
村井、梁田、塙、明智に推した名を見よ」

 一同、大いに得心し、頷いた。
 長門は毛利氏の領土であり、
別喜、原田、惟任は、
かつて九州に存在した名族武士の姓だった。

 長秀が、

 「相通ずるは、この後、平定すべき国」

 信長は、

 「帝の裁可を頂いて、
(あらかじ)め、印を押すということだ。
天下布武、仕上げの国々に」

 信長の武力、政治力、財力を認め、
心強く(たの)んだ帝は官位昇進を命じた。
それは信長という存在を支配することでもあった。
 今後の戦況を鑑み、
かつ、功臣達に栄誉を与えて褒賞しようという信長は、
あくまで官位の実利を重要視し、
信長自身は、

 「頂戴できるであろうからな、儂はいつでも。
万事如意(ばんじにょい)

 望みさえすれば、
その時点で官位は上がると述べた。

 
 
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