第255話 勝家の一門(6)室の座⑤

文字数 548文字

  御家の為、勝家も室を迎えるべきだと口の端に上げた元助は、
父 池田恒興が信長の乳兄弟だった。
 元助の祖母にして恒興の実母である養徳院は、
今も織田家中で尊敬を集める信長の乳母であり、
織田家先代の側室でもあって、
幾重にも主家と縁で結ばれた恒興は
主君の疑心を招くことなく、
心置きなく閨閥形成に努められるという側面は確実にあり、
例えば信長の庶長子の件で直政が、
稲生の戦いで勝家が、
信長の尾張統一前とはいえ、
関係にさざ波、荒波があったことを思えば、
池田家は武功や忠誠を問われることもない、
絶対の安全地帯に居て、
思うがままに閨閥を結ぶことの可能な位置づけにあった。

 ……数年後の今、北庄(きたのしょう)城を築く槌音の響く本陣で、
越前の国主となった勝家に信長が質した。
 
 「権六よ。
今からでも遅くはない。
室を持て。
 そうだ、権六の室ともなれば相応の姫でなくてはならん。
または誰ぞ意中の女御が居るのなら、
儂の養女とした上で嫁がせてやっても構わぬのだぞ」

 何事であれ、誰であれ、
信長に勧められて断るなど出来はしないはずのことであり、
一国の主となった勝家は今度こそ(かたじけな)くも承って、
頭を垂れ、平伏するはずだった。

 持しているのは秀政、仙千代ら、
ごく身近な側近だった。
 一同の固唾を飲む音が聴こえるような気がした仙千代だった。


 

 

 

 
 

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