第161話 雷神と山中の猿(12)光と影②

文字数 607文字

 秀吉の忠心の発露とでもいうべき言葉として、
市松は語った。

 賢明な佐吉、思慮深い夜叉若は、
信長の最側近である仙千代に、
主の赤裸の心を漏らした市松は不用意に映るのか、
二人して硬直した。

 仙千代はといえば、
秀吉の心理を窺い知ったことは、
それこそ側近として知っておいて損はないことであり、
市松を褒めてやりたいぐらいだったが、
同時、如何にも失敗に事欠きそうもない市松が
またも佐吉から叱責を受けては気の毒だという思いも湧いて、

 「羽柴殿ほど上様に、
大恩の念を抱いておられる御方はまず居りますまい。
上様の憐み深い御性分を慮るその心情、
(しか)と受け止め、胸に刻んで、
何かの折には是非、役立てよう」

 と、市松に和やかな顏を向けた。

 佐吉、夜叉若、
二人の安堵が聴こえるようだった。

 そろそろ退出させていただこうという雰囲気が
隣室から伝わり、
仙千代は最後、言い添えた。

 「羽柴殿が治める長浜は、
人々が生き生きと街作りに勤しみ、
上様も如何なる都が出現するかと
楽しみにしておられる。
一国の主という立場を得られた羽柴殿は、
新たな境地に至り、
上様の御心を既に解しておられるのやもしれぬ。
詳しく検地をする一方、
土地を持たぬ者に分け与え、
ひもじい思いをする子らが一人でも減るように、
心を砕かれたとか。
長浜は上様の名の一文字を賜った地。
その街づくりに加わることが出来るとは、
御三人はまさに幸運じゃ」

 佐吉は顎を引いて頷き、
市松と夜叉若は笑顔を返した。

 
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み