第261話 勝家の夢(6)庄助と久太郎③

文字数 532文字

 秀政が核心を言い切ったので、
信長は鷹揚に出ることとした。

 「まあ、左様なことだ。
於市は気丈に映るが、権六も存じておろう、
あれは若い頃には身体が弱く、
嫁には行けぬかと思うておった。
 故に嫁ぐのも二十代の半ばという遅さ。
浅井に嫁がせはしたが子を成すことが可能か否か、
実際、心もとないものがありはした。
 が、嫁してみればあのようなことだ。
意外な女丈夫を発揮して、
亡き前室の遺児の養母となり、
三人の姫を産み、奥を切り盛りしたのであるから、
流石、織田家の女子(おなご)、たいしたものだ。
 とはいえ、流転の身であることに変わりはなく、
お転婆盛りの娘の養育も慌ただしい。
 時期さえ違っておればなあ。
権六が年上の義弟というのも、
また興趣なのだが」

 ついて出た言葉に嘘はないが、
口調は軽口めいて長閑(のどか)なものだった。
 あまつさえ手元の竹筒を取り、
喉を清水で潤している。

 平伏したまま勝照は食い下がった。

 「劔神社を擁す越前は上様御一族始祖の地にて、
於市様が心安らかに御身を定められるには、
無二の場所かと存じます。
これを治める奇遇に恵まれました我が殿に、
何卒、是非にも御力添え頂き、
国母となってお支え願いとうございます!」

 当の勝家は半ば狼狽気味に勝照を見遣り、
もう良い、引けという顔色でいた。

 
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