第241話 越前国(12)加賀への援軍③

文字数 756文字

 秀政も秀吉に加勢すべく、
直ちに郎党、配下を連れて出馬した。
 秀政の素早い反応に信長は歓心し、
手勢を潤沢に付けてやり、

 「せいぜい手柄をたてよ」

 と送り出し、
秀政は北庄(きたのしょう)を慌ただしく発った。

 出立前、馬上の秀政は、

 「菅谷殿は岩村、儂は加賀。
上様の警護、くれぐれも怠らず、
任せたぞ」

 と声を掛け、
仙千代が神妙に受けると、
北庄より一段と秋の進んだ加賀へと馬身を向けた。

 石山本願寺 顕如の率いる浄土真宗門徒でありながら、
やはり本願寺の一派である
一向宗の信者達と兵刃を交える秀政の思いは、
異なる宗派の家に育った仙千代でさえ、
苦悩が推し量られた。

 しかし武門の家に生を受け、
嫡男として一家を率いる秀政は、
大将として一軍を任されたからには逡巡を、
一切、浮かべはしなかった。

 活躍を願っております!
 何卒御無事で!……

 長島での討伐戦がそうであったように、
死ねば極楽浄土とばかり、
敵は文字通り一命を捨て、突撃してくる一向門徒で、
秀吉の窮地に助太刀するのだと
晴れがましい表情を見せた秀政の内面は如何なるものか、
答えの端緒にすら辿り付けぬまま、
夕陽を浴びた甲冑姿の秀政の背に
仙千代は心で手を合わせた。

 やがて三日を待たず、
北庄(きたのしょう)の陣に羽柴軍圧勝の報が伝えられた。
 秀吉、秀政は屈強でならす敵を撃破して、
討ち取った首は二百五十を越えた。
 信長は上機嫌の極みとなって、
帰参した二人に、

 「見事!鮮やかな戦いぶり。
この勝利、けして忘れぬぞ」

 と盃を賜った。
 秀政という縁の深い若武者を従え、
難攻の加賀を征圧した秀吉は実に誇らし気で、
日向の梅干しのような顔に浮かんだ笑みが、
いつにも増して皺くちゃだった。

 ここには北庄の主となる柴田勝家も同席しており、
先ほど、秀吉が帰陣した際は、
信長の名代とばかり、
先頭だって勝家が一行を出迎えていた。

 
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