第335話 洞での鷹狩り

文字数 719文字

 鷹狩りは武家にとって、
家来の能力、個性を見極め、
組織の結束を高め、
領国の視察ともなることから戦国期、盛んに行われ、
草木の繁る夏よりも見晴らしのきく枯野の季節に多く催された。
 信長、信忠は鷹狩りをたいそう好み、
師走が近いこの日も城下の(ほら)という村へ繰り出した。

 極めて裕福な家であったとはいえ、
その個性をもってして野生児の如く育った信長と違い、
信忠は生まれながらの貴公子としての側面があり、
流派に則った武術の腕前は無論、
鷹狩り、茶の湯、猿楽と、嗜みを超える造詣があり、
それもこれも信長が権勢にあかせ、
当代一流の師範を付けた結果であって、
鷹狩りの成果で信忠に負けることが度々となっても、
むしろ父としては誇らしく、
また、信長に負けじと奮闘する姿は頼もしくもあり、
好ましかった。

 とはいえ表面上は、敗北は口惜しく、
面白くもないという顏を信長は崩さなかった。

 「鷹狩りばかり長けておってもな。
武士の本懐は合戦、戦じゃ。
 雉、兎、猪……
いくら捕ろうと所詮、鷹狩りだでな」

 負けず嫌いを装う信長の仏頂面は、
よく見れば頬や口元がほころんでいた。

 御望山、郡府山、城ヶ峰という山々を背に、
一行は城下へ向かった。
 夕暮れまでにまだ間があるが、
陽が沈み切る前に帰城するに越したことはない。

 町へ入り、とある一画を通る時、
笛、太鼓の音と共に人々の嬌声が聴かれ、
興味を示した信長が見に行かせると、
旅の一座の興行が寺内で行われているという。

 「御覧になりますか」

 仙千代が尋ねた。

 「いや、やめておこう。
 野ざらしに身体が冷えた。
儂は帰るが殿は好きになさるが良い」

 信長は気を利かせ、
信忠や若年の小姓達に見学を許した。
 その引率で仙千代は残った。

 

 

 

 


 

 


 

 



 



 
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