第185話 縄張り奉行

文字数 676文字

 城を築くとなると膨大な資金資材、人手を要する。
 それらを差配して動かし、
まとめあげて前に進める実行者が総奉行だった。
 ただ、今回の安土城は、
先例のない城になることを信長が目指していて、
総奉行の長秀を従え、
信長自身が陣頭指揮を執ると明言していた。

 かつてない名城が誕生するのだ、
大湖(おおうみ)(ほとり)、安土の山に!……

 大恩ある信長の夢の城を寿いで仙千代の胸は躍った。

 主が新たな城を築くのであるから、
家来達は財や人を繰り出して、
ここぞとばかりに忠節の発露を見せる。
 そこでは家臣同士の競争が生まれ、
良く働けば切磋琢磨となって城の礎を固めるが、
逆に作用したなら関係を悪化させ、
ひいては家中の結束の乱れを招く。

 尾張統一を果たし、
織田家の領袖として名実とも地位を盤石にすると、
可能な限りの、
いや、依怙贔屓そのものと言わざるを得ない程の
あらゆる「装飾」を長秀に与えた信長は、
またしても突出した寵愛で、
長秀に総奉行という名誉を授けた。
 しかし、信長に、

 「米のようになくてはならぬもの。
我が友にして兄弟」

 とまで言わせた長秀であればこそ可能であるのが、
その役職だった。
 個性の強い曲者揃いの家臣団にあって、
長秀は元来が目立つことを好まず、
篤実にして優れた調整役だった。
 他を立て、自らは一歩下がる、
その心根がなければ強烈な面々を束ね、
前に進めていくなど出来はしない。

 縄張り奉行も上様のことだ、
深謀遠慮に抜かりはなく、
御胸には必ずや意中の人が居られるであろう、
その名を知る日が楽しみだ……

 信定にせっかちだと笑われた仙千代は、
抑えられない好奇心にいったん、蓋をした。

 


 




 
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