第151話 雷神と山中の猿(2)天誅①

文字数 618文字

 秀吉は、いわば地獄耳で、
誰の懐にも臆すことなくグイグイ入り込み、
あちらこちらから多くの情報を得て、
それらを差配や作戦に生かすと同時、
信長に報せては、寵を受ける一因となっていた。

 石田佐吉ら、秀吉の近習達も、
当然、畿内の情勢に詳しかった。
 とりわけ佐吉は秀吉の評価が高く、

 「市松、夜叉若。
佐吉を手本として努め、学ぶのだ」

 とさえ、いつぞや言っていた。

 その佐吉が瓜を食べ終え、

 「去る晦日(みそか)
大和高山(たかやま)に雷が落ちたこと、
万見様は御存知ですか」

 と、いつも通りのやや無表情な面立ちで訊いた。

 高山は室町幕府政権下、
大和の国人、鷹山氏が城を築いて権勢をふるった地で、
鷹山一族は源頼光の遠戚を標榜し、
鎌倉時代中期から大和に根差し、
興福寺は当然のこと、
東大寺とも深い縁を結んでいた。

 (ばん)直政の小姓、野木巻介と大和を回った際、
仙千代は高山の荘園を訪れていた。
 城に昔日の面影はなかったが、
鷹山氏が興福寺一乗院の衆徒であったことから、
荘園は興福寺によって運営されており、
たいそうな規模に仙千代らは目を(みは)った。
 因みに一乗院は、
足利義昭が三才にして入室した塔頭(たっちゅう)で、
義昭は兄 義輝が横死し、
急遽、将軍となって還俗するまでそこに暮らした。

 確かに先だって、
京にも雷鳴が轟いていた……
大和は(いかづち)が左様に激しく……

 賢い佐吉のことであるから、
単に雷が鳴った、
落ちたという話ではないと仙千代は推した。

 すると、襖を隔てた隣から、
秀吉の闊達な声が響いた。



 

 

 

 

 







 
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