第397話 御狂い(4)小弁の才覚

文字数 696文字

 御狂い(おくるい)出場の為、信長以下、
大人達は誰も田吾作よろしく頬かむりに粗末な召し物、
中には御丁寧に顔に泥を塗ったり、
何処から手に入れたか破れた野良着を着込んだ者も居り、
凝る者は扮装をも楽しんでいた。
 
 師走の候のことで、
岐阜へ挨拶にやって来て居合わせた諸侯、家臣、
貴族、富豪、文化人と、
徒歩組の顔触れは多岐にわたって賑やかだった。
 
 鷹狩り同様、御狂いも、
冬季の体力作りや鬱憤晴らし、
家臣の能力、個性を見極める手立てであると同時、
今日のように大掛かりなものは、
接待、社交としての一面があった。
 今や信長は天下人として振る舞っている。
だからこそ賓客に無礼があってはならず、
奇特な催しであったと記憶に刻んでもらわねばならない。
 そもそも信長は人を喜ばせることを好み、
例えば若い頃、
津島天王祭では天女に扮し、羽衣を纏って舞い、
民衆を驚かせ、
町の長老達が畏まろうと自ら茶を振る舞って回ったりもした。

 よくよく見ると小弁は大人達数人に囲まれ、
何やら説明めいた真似事をしているかのようで、
やがて仙千代は合点がいった。

 小弁は諸国を流れ暮らした経験があり、
畿内は当然のこと、地方の言葉を聞きかじっており、
しかも読み書きは出来ぬ分、
芝居の台詞も口伝で教わる為に耳で覚えることには長けていて、
分かる範囲であろうが他所の御国言葉を通訳し、
世話の役に立っているようだった。

 「我ら兄弟も負けてはおられませぬ!
虎、藤、小弁が、新参者、
いや、正式な家来でもないに、あのように。
 祥吉、行くぞ!
せめて皆様の手伝いでもせねば!」

 「はい!兄上!」

 銀吾、祥吉は、土手を駆け下り、
競技場へ向かっていった。

 
 
 



 

 

 


 
 


 
 

 

 

 
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み