第221話 北陸平定戦(13)青と赤の炎⑦

文字数 702文字

 朝倉討伐最中(さなか)の二年前、
信忠に虎御前砦を任せ、
嵐の夜に急遽出陣した信長は仙千代ら、
若手の小姓は砦の守備に当たらせることとして、
闇夜の出陣に参じさせはしなかった。

 二年の歳月は信忠を単独軍事行動の総大将にし、
仙千代も育ち、
来客を選り、交渉にあたり、
副状(そえじょう)を書き、戦目付の任に就き、
合戦時には後詰も難なく行って、
多方面での働きぶりは他の小姓を圧倒し、
普請に強い興味を示して一芸に長けた竹丸に、
今やすっかり並び立ち、
二人は稀有の才人、堀秀政に追い付かんとしていた。
 いかんせん、仙千代、竹丸共に、
戦績は未だ無であるものの、
この後いよいよ一家を成せば、
自ずとそれは付いてくる。
 また、敦賀を任せている武藤舜秀(きよひで)
信長が高く評価していることから、
十五日の一斉攻撃時、仙千代は、
舜秀隊に配下の家来と合流し、
実戦指揮の何たるかを学び、
信長の許に帰参した際は喉が嗄れ、
感冒にでも罹ったかという有様だった。

 「ろくに声さえ張り上げられぬとは、
およそ指揮官として風上にも置けぬ」

 と信長は叱責する素振りに(いた)わりを込めた。
 仙千代は、

 「若輩にも程があり、
ただ恥じ入るばかりにございます」

 と(かす)れ声を必死に絞り出していた。

 数日を経た今、喉が戻った仙千代は、
いつも通りの穏やかな声質で、

 「この一乗谷で、
彷徨(さまよ)う義景殿の御霊(みたま)に耳がありますのなら、
上様の御言葉、何を今更と、
呆れて聴いておられるやもしれませぬ」

 と、珍しく感傷を滲ませた信長を(うつつ)に戻すでもないが、
少々(とぼ)けたことを言い、
信長の気に変化を与えた。

 「そうか。
義景は儂が憎々しいか」

 「恐れながら御意」

 仙千代が言えば無礼が無礼に聞こえず、
真意が伝わり、心に明風が吹いた。

 
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