第104話 多聞山城(14)水飴④

文字数 735文字

 話を聞こう、興味があると言った巻介が、
得心の意を漏らした。

 「確かに帝と御婆様では違うも違う、大違い。
なれど同じく血が流れ、肉で成った人は人。
帝は上様の御父上ほどの(よわい)にて、
戦乱の世の多くの苦悩に御身を晒し、
日の本を背負ってこられた。
あちらの支え、こちらの支え、皆々大事。
左様に映らぬでもない」

 巻介の声が何処か明るくなったのを耳にして、
仙千代は源吾を頼もしく思う気持ちに気付いた。
 直情的で腹の内を隠すことの苦手な彦七郎、
そんな兄を時に心配しつつも敬愛している彦八郎、
二人共、仙千代には、
同じ地で育ち、
同じ水を飲んで育った同胞(はらから)だった。
 源吾は縁者といっても遠縁で、
幼くして岐阜の城へ上がった仙千代と未だ三月(みつき)の仲ではあるが、
仙千代が敬ってやまない万見の養父(ちち)が見込んだだけはある、
真っ直ぐ育った大木のような武士(もののふ)だった。

 「帝たるもの、
我が身可愛さでのみ御振舞いになられるのではない。
左様にも思われてきた。不思議じゃな」

 と言う彦七郎に仙千代も応えた。

 「蘭奢待の行方、帝の思惑。
巻殿の調べ、まこと、得難い話であった。
それら縺れた糸が、
どう絡まって何処へ結び付いておるのか、
けして忘れてはならぬ。
忘れて動けば、この都では、
(たちま)ち奈落の底へ落ちぬとも限らず。
だが、帝は善悪を越えた存在なのだと今一度、
思い知ったことも確か。
帝にしてみれば、
百年ぶりの安寧を京に(もたら)した上様は、
純なる本性の振舞が幾らか理解の外で、
呆気に取られ、時に腹が立とうとも、
他に代わりはない大事な御方。
一方、九条卿や寺社勢力は、
つまるところ、御身内衆にて、
可愛くないはずがない……」

 彦八郎が念を押した。

 「まとめれば……皆でこの身を支えよ、
白も黒も右も左も一同で内裏を支えよと、
帝は左様なことでござるのか」

 
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