第231話 越前国(2)勝利の分け前②

文字数 556文字

 背が伸びたと言われ、仙千代は、

 「着物の丈で感じております」

 「滋養も睡眠も足りておる証左。
戦地でも育っておるとは、
図太さはなかなかだ」

 「図太いのではありませぬ、
健やかな(たち)に恵まれておるのでござる」

 「ああ言えばこう言う質にもな」

 「そっくりそのまま、
(きゅう)様にお返し致します」

 秀政は笑った。

 「我ら二人では口合戦に果てがない」

 仙千代も笑った。

 周囲には仙千代の配下、
市江彦七郎、市江彦八郎、近藤源吾重勝も居り、
軽口はそれぐらいとして、
二人は互いの従者達にも手伝わせ、
書状の整理を早速始めた。

 実務は実務で進めつつ、
筆を止めぬまま秀政が、

 「忙しくも明智殿は加賀から取って返し、
丹後へ出陣したと聞く。
 越前、加賀と進攻し、大手柄をあげ、
勝利の美酒に酔う間もなく、
既に次の御出陣。
()に凄まじき御奉公ぶり、
頭を下げずにおられぬ」

 仙千代も書状に目を遣ったまま、

 「一日、いや、半日の閑もとられず、
丹後へ向かわれた由」

 秀政の顔には光秀への感嘆があった。
 その感嘆は仙千代のそれでもあった。
信長の父世代とまでは言わぬものの、
相当に年嵩である光秀は家中に於いては新興ながら、
齢で語れば、信長が親しみを込め、

 「御老体」

 と呼ぶ熱田の加藤順盛(よりもり)こと図書之介とほぼ等しく、
長老格である金森長近や河尻秀隆よりも年配だった。

 
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