第103話 多聞山城(13)水飴③

文字数 376文字

 一同、笑いが収まると、
ずっと聞き役だった彦八郎が、

 「たいした婆様であらせられる。
婆様、流石の女人でござったなあ」

 すると源吾が、

 「それはもう!たいした御婆(おばば)でござった」

 と我が意を得たりと破顔した。

 「我が婆様は多くの子に恵まれたものの、
戦や病で次々失って、
爺様も先に亡くなり、
女丈夫とならざるを得ずの生涯。
何の二心(ふたごころ)があるでもなしの言葉であったと思うのでござる。
父を見れば父が可愛い。
従弟(いとこ)を見れば従弟が可愛い。
ある時、縁者内で揉め事があって、
婆様は誰の味方をするでもなく、
皆を叱り、皆を(なだ)め、
最後、皆が婆様の顏を立て、矛を収めた」

 源吾に誰もが聴き入った。

 「帝がどのような御方であらせられるか、
朝廷が如何に輝かしいものであるか、
微塵も存じ上げぬ一介の武辺者でありますれば、
秘宝の香木の行方を聴き、
我が祖母をふと、
懐かしく思い出した次第でござる」

 
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