第429話 第三部 了に寄せて(3)

文字数 832文字

 ……織田長益③

 織田家の正当性は豊臣も徳川も認めるところであって、
特別な血筋の故に有楽斎は一見、労なく生きたかに映ります。
 果たしてその実は……。
 
 が、一方で、このようにも思うのです。
 面目、建前を重んじる武士の時代、
もし真に流行り歌でまで揶揄されたような人物であるのなら、
誰にも顧みられず、
まして美の追究者として存在を許されるなど
有り得なかったことでしょう。
 
 長益の織田家は江戸時代、大名として存続し、
有楽斎流茶道は現在も継承され、続いています。
 末裔の織田裕美子氏(第十六代、宗裕)が有楽斎の茶を今に伝え、
先日も地元名古屋で会を催されています。
 家元制度を採らず、
武家茶道として御家の中でだけ継がれてきた有楽斎の茶。
 有楽斎の茶の湯に惹かれる方達の声に応じる形で今、
発信が為されています。

 有楽斎と名乗りつつ出家はせず、
武士として生きた長益。
 もしや飄々として生きたかに見える長益。
 
 兄、信長の死。
 秀吉台頭、豊臣家滅亡。
 徳川の天下。
 余りに多くの生死を見、立ち会う宿命でした。

 人としての深さ、もしかしたなら哀しみを、
生涯に見てしまうのは私だけでしょうか。
 哀しみを昇華し、
今をただ生きる、命を愛する……
 それが武士、
有楽斎こと長益の茶なのではないでしょうか。

 この第三部では岐阜城での信忠主催の茶の湯に、
有楽斎こと長益が偶然居合わせ、参席します。
 叔父というには若い、二十代の長益。
 明朗な人物として描いています。
 本能寺の変当日、
信忠と長益は同じ場所に居て、生死を分けます。
 
 臆病、滑稽、または狡く描かれがちな長益。
 苦労を重ねた一生であったことには間違いがない。
 物語では爽快な人物として登場させたい思いがありました。
 悲劇の最期を遂げた柴田勝家と於市。
 この二人も淡い恋情を抱いていた仲として書きました。
 苦難につぐ苦難を生きた武将、姫。
 誰も敬うに値し、誰も私達を魅了してやみません。


 山口小弁に続く……



 
 

 

 
 
 
 
 




 

 
 
 
 
 
 
 

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