第49話 岐阜城 古い手紙(4)

文字数 532文字

 信忠の鬱憤を知ってか知らずか、
三郎がのうのうと続ける。
 
 「御二人はお幸せなのでございましょうね。
秋山殿は正室の座こそ空いておられたものの、
甲斐に娘御が居られるのだとか。
それがあの御年にして初の男子に恵まれ、
かつての敵味方とはいえ、
夫婦仲(めおとなか)睦まじく」
 
 信忠は飲みさしの白湯を湯呑ごと床に投げ付けた。

 「不快じゃ!耳が汚れる!」

 「御耳どころか、この後は、
目の当たりにされるのですよ、御二人を」

 「知っておる!」

 「遠山氏の岩村城は、
織田家と武田家を隔てる最前線の城。
姫が嫁がれる以前には、
武田家と主従関係を結んでいた。
城中は織田家より武田家に心を寄せる者が多いと言われ、
そこへ姫は嫁せられた。
しかも遠山景任(かげとう)殿の死。
私が艶姫様であったなら虎繫に漢気(おとこぎ)を感じたでしょう。
なりふり構わず求めてくれた。
籠城で家臣も兵も気力体力を失う中、
頼りの上様は長島に手を焼いて兵を退()かれた。
姫が虎繫の思いに応えたことは責められませぬ」

 「それが不快だと言っておる!」

 脇息をも投げた信忠に三郎が、

 「八つ当たりなど、若殿らしくありませぬ」

 と、またも腹の立つ返しをした。

 控えの小姓達が襖の向こうで、
二人を案じる空気が伝わる。

 「口幅ったいことを!
言われぬでも儂は儂だ!いつでもな」

 
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