第150話 雷神と山中の猿(1)瓜

文字数 636文字

 信長が相国寺に滞在して数日後、
長浜から秀吉がやって来て、
六角家の残党を討伐したが、
なかなかの勇猛さを見せたので、
信長の許しさえあれば
捕縛した者達を家来にしたいと言った。

 東三河 志多羅での戦勝の宴の後、
秀吉は仙千代を待ち受け、
信長が城を安土に築くのではないかと探りを入れ、
その際は安土山に住まっている六角の将兵を打尽して、
今後、織田家に忠節を果たすなら
長浜城下で面倒を見る意志があると語った。

 これは秀吉にとり、うまい話で、
安土山の六角残党討伐は築城にあたって必須であって、
これを行うことにより秀吉は信長から得点し、
同時、自軍の人手不足解消の(たす)けにもなる。

 信長は秀吉が安土山の掃討を行ったことに、

 「儂の許可も得ず、けしからぬ」

 と言いつつも、
満更ではない表情を見せた。

 やがて、秀吉の面白可笑しい談話が始まり、
仙千代が場をいったん外すと、
控えの間に秀吉の小姓、
石田佐吉、福島市松、加藤夜叉若が居た。

 佐吉は秀才の誉れが高く、
秀吉が常に傍に置いていた。
 元気者の市松と勤勉な夜叉若は秀吉の縁戚で、
やはり秀吉に可愛がられている。

 信長の座所の訪問であるせいか、
三人は見るからに慎ましい風情で、
隣室の秀吉が何やら信長の笑いを誘っていようとも、
じっとも動かず座していた。

 仙千代が配下に、

 「御小姓衆に何ぞお持ちせよ」
 
 と命じると色艶鮮やかな瓜が運ばれてきた。
 
 年長の佐吉が、

 「頂戴致そう」

 と市松、夜叉若に声を掛け、
三人はようやく寛いで、
みずみずしい瓜を食んだ。

 

 
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