第72話 岩鏡の花(4)検使④

文字数 861文字

 竹丸に意見を求めた堀秀政は、
三年前、
当時の岩村城主 遠山景任(かげとう)が子が無いまま病没し、
家中の織田方を支持する家臣派閥の申し入れにより、
信長の五男 御坊丸が養嗣子(ようしし)となることが決定し、
岩村に入府する際、
御坊丸を警護する随行団として、
岩村城を訪れ、城郭をその目で見、
ある程度、城内外の知識を実地で得ていた。

 竹丸が述べた。

 「堀様から事前に伺っておりました通り、
いや、それ以上に山が険しく、
岩村城の難攻ぶりは聞きしに勝ると、
あらためて驚嘆を禁じ得ず。
また、日の殆どを霧の向こうに姿を隠し、
霧ヶ城なる異名も、さもありなんと、
重い溜息が出るような思いでござる。
活路を見出すならば、兵糧攻め。
やはりこれしか思い浮かびませぬ」

 徳川家康も志多羅・長篠の戦いで勝利を収め、
三河支配を確実にすると、
駿河の敵城や砦を無力化せんと、
返す刀で素早い動きを見せていた。

 四郎勝頼は、
信玄入道さえ叶わなかった高天神城を手に入れた……
存在を誇示し、
偉大な父の幻影を振り払い、
我こそ正当な後継であると認めさせる為、
無理を重ねて手にした高天神……
岩村は岩村で、要衝の地……
かといって今の武田に、駿河、東濃、
両面展開は困難であろう、
勝頼が力を取り戻す前に、
岩村を落とさねばならぬ……

 竹丸の言を耳にしつつ、
信忠は今一度、巡らせた。

 秀政は、

 「そこは流石の河尻殿。
武器、兵糧の補給路を断つなど、
油断なく行っておられると聞き及びます」
 
 と、秀隆を仰いだ。

 秀隆は上座の信忠にあらためて正対した。
 信忠の背には、
尾関三郎賀義(よりよし)と加納勝丸が控えていた。

 秀隆が応えた。

 「敵が籠城に入って日の浅い今、
我らに可能な戦法は一にも二にも街道封鎖。
これに勝るものはありませぬ。
しかし、一帯はこの数年、
武田が力を伸して勝頼に(くみ)する豪族が少なからず、
織田、武田に両属していた東濃各地の遠山一族も、
上様に忠節を尽くそうか、
武田に付こうか、未だ様子見といった案配で、
旗色を明らかに致しませぬ。
引き続き、調略を仕掛けてまいる所存にて」

 秀隆の言葉に信忠は頷き、
一同に評議を進めさせた。
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