第333話 竹丸の元服

文字数 672文字

 仙千代らは安土へ移る支度の日々、
普段にも増して多忙を極めた。
 信長が安土へ座所を移そうと、
織田家当主が信忠になろうと、
刻々と戦況は変化して、世は目まぐるしく変わる。
 信長は戦地から届く報せに対応をして、
方面団の指揮、援護を行った。
 天下の平定事業のみならず、
無論、信長には夥しい政務があって、
新たに臣従を誓った各国大名との交信があれば、
公家、諸将、寺社からの訴えもあり、
それらを裁いた上で、
歳末が近いというので挨拶に上がる者達の謁見も行わねばならず、
加えて、安土の築城を担う奉行達との打ち合わせもあった。

 そのような中、
岩村から帰還した竹丸が元服をすることとなり、
堀秀政が烏帽子親(えぼしおや)に任ぜられた。

 秀政の家筋は美濃の土豪で、
もとは斎藤道三に仕えていた。
 秀政は伯父が本願寺派の僧侶で、
従兄(いとこ)と共に仏門に入っていたが、
家名を絶えさせぬ為、二人揃って還俗し、
先に手柄をたてた方が主になろうと約束し、
はたして秀政が功をあげ、堀家を率いることとなった。

 長谷川家は織田家に於いて堀家より歴史が古く、
竹丸の叔父、亡き橋介は若き日の信長の小姓、
父、長谷川与次も派手な戦績はないながら、
堅実な働きぶりと風流の造詣によって、
信長の覚えは(すこぶ)るめでたいものがあり、
織田軍本隊の与力として、
尾張と美濃を繋ぐ街道の要所、
木曾川畔の尾張北方(きたがた)に知行を賜っていた。

 家来衆の名付けの経験が先にあるとはいえ、
長谷川家と堀家の家格を理由に、
秀政は当初、栄誉ではあるが辞退すべきが相応であると、
遠慮をみせた。

 信長の扇がピシリと鳴った。

 「これは命令じゃ。
辞退もへったくれもない」

 
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