第101話 多聞山城(11)水飴①

文字数 592文字

 織田家中に於いて場の誰よりも経歴が浅く、
従って地位も低い近藤源吾重勝は、
東屋の末席に侍しつつも、
巨躯を小さく畳むでもなく、
茫洋とも映る空気に身を包んでいた。

 仙千代は、

 「巻殿の得難い話をお聞きし、
源吾、どう思うた。
何某か感ずるところがあったであろう」

 と水を向け、重勝を見た。

 縁者である重勝が家来になって、
未だ三月(みつき)
仙千代の従者であることから、
権力最中枢の内情に触れてはいるものの、
日々の見聞を源吾が如何に咀嚼し、
解しているか、
今日の話が相当込み入って怪異面妖であっただけに、
仙千代は六つ年嵩である源吾の思念に興味を抱いた。

 「申せ」

 「はっ。うちの(ばあ)様を思い出しました」

 「婆様?」

 「祖母でござる」

 「祖母!?」

 全員が呆気に取られる中、
源吾は特に表情を変えるでもなく続けた。

 「うちの婆様は水飴作り名人で、
時に飴を舐めさせてくれたのでござる」

 気が良いはずの彦七郎が声を荒げた。

 「些末な話をしておったのではないぞ!
御物(ぎょぶつ)、蘭奢待ぞ!
婆様の飴とはまったく違うのだ」

 源吾が黙すと仙千代より先に巻介が、

 「まずは聴こうではないか。
儂は興味をそそられる」

 と収めた。

 彦七郎は、

 「はっ、畏れ入ります」

 と直ぐに引き下がった。
 巻介が胃を悪くしながらも得た貴重な情報を、
身内の飴の話と同等にしたことを敢えて怒って見せ、
巻介の気分を損ねぬよう、
彦七郎なりに気遣ったのだと知れた。







 
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