第363話 慌ただしい日々(4)鉄の紐帯

文字数 738文字

 尚清(ひさきよ)の父は定宗といい、信長の大叔父にあたり、
定宗の叔父、織田秀敏は信長が家督を継いだ後、
一門衆の長老として若き日の信長を支え、
秀敏の孫である織田小藤次は、
これもまた信忠に仕え、
織田政権次世代の一員として嘱望されていた。

 尾張統一の過程に於いてどれ程の辛苦があったか、
共にその道を歩んだ志士が尚清やその一族であり、
信長の深い信頼は尚清の嫡男に、
乳兄弟 池田恒興の養女にして信長の姪を嫁がせていることからも
知れる鉄の紐帯だった。

 「互いに気心の知れた仲である故、直截に言おう。
 細川与一郎藤孝。
 与一郎は存じておろう。
これは細川家傍流ながら
畿内の大名として一早く臣従を示した気骨の主にて、
儂は何やら気が合うて、
与一郎の口利きで(はる)の婿を探せばどうかと考えぬではなかった。
 与一郎は我が(つま)あここの父にして於濃の妹と縁戚にある
三条西卿と古典研究の師弟にして、
この時代、最高峰の教養人、しかも武に長けておる。
 左様な与一郎の眼に適う者を養子として入れた後、
その者を華と結べば佳き縁組となる。
 与一郎には熊千代なる嫡男が居るがこれはまだ八歳。
華に熊千代の長じるのを待てとは流石に言えぬ。
 が、此度、親族の集まりで細川家嫡流当主と
華の縁談が出たともなれば、
これはまた格別に目出度い話。
 右京は二十七であったか、
華とは一周りの歳の差ながら娘盛りに男盛り。
 うむ、良いではないか。
 華が何を申そうが勝手をさせてはならぬ。
 有象無象(うぞうむぞう)の野合ではなし、
我が姪の婚姻じゃ、我儘気儘は許されぬ」

 「それがですな、それが……」

 ここで今一度、尚清は口ごもり、

 「やはり御人払いを。
 お頼み申す」

 と秀一、仙千代に視線を向けた。

 一呼吸置き信長はさっと手を振った。
 二人は直ちに正しい作法で退室した。

 

 

 



 

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