第148話 相国寺 寝所(6)抵抗⑥
文字数 553文字
信長が寝付いたと思い、
寝所を出ようとして腕を掴まれ、
褥に戻され、話すうち、
信長が数とも言えぬ寡少の伴 で国を跨 ぎ、
入京したと知り、
何故そのように危険な振舞をするかと訴え、
怒りを買った仙千代だった。
しかし告げた思いに嘘はなく、
後悔があるとするなら沈着であるべきが、
涙を見せたことだった。
主の安全に関しては、
若輩であろうが不興を買おうが、
引いてはならぬという忠義の発露であったのが、
最後は頬が渇く間もなく涙を流した。
瞬時に湧いた涙は抑えようがなく、
仙千代は激情に走った未熟を省みつつも、
どれ程の者達が上様に希望を見出し、
血命を捧げてきたのか、
上様の御命は上様御一人のものではない……
上様が居なければ生きてはおられぬ者達が、
まだまだ数多、居るのです、
この仙千代とて……
蹴られた枕が壁に当たって大音を響かせた刹那、
次に主の足が飛ぶのはこの身だと
芯まで震わせ覚悟した仙千代だったが、
激怒に遭っても阿 ることはしなかった。
ふと、脳裏に、
松姫への書き損じの手紙 を盗んだとして、
信忠に足蹴にされたいつかの幼い自分が浮かんだ。
艱難辛苦の果てに築かれた上様の世が、
いずれ若殿の治世となる……
清々しい心根のあの若殿の世に……
上様が、皆々が、
願ってやまないその日の為に、
砂塵の如きこの身でもお尽くし申し上げる!……
寝所を出ようとして腕を掴まれ、
褥に戻され、話すうち、
信長が数とも言えぬ寡少の
入京したと知り、
何故そのように危険な振舞をするかと訴え、
怒りを買った仙千代だった。
しかし告げた思いに嘘はなく、
後悔があるとするなら沈着であるべきが、
涙を見せたことだった。
主の安全に関しては、
若輩であろうが不興を買おうが、
引いてはならぬという忠義の発露であったのが、
最後は頬が渇く間もなく涙を流した。
瞬時に湧いた涙は抑えようがなく、
仙千代は激情に走った未熟を省みつつも、
どれ程の者達が上様に希望を見出し、
血命を捧げてきたのか、
上様の御命は上様御一人のものではない……
上様が居なければ生きてはおられぬ者達が、
まだまだ数多、居るのです、
この仙千代とて……
蹴られた枕が壁に当たって大音を響かせた刹那、
次に主の足が飛ぶのはこの身だと
芯まで震わせ覚悟した仙千代だったが、
激怒に遭っても
ふと、脳裏に、
松姫への書き損じの
信忠に足蹴にされたいつかの幼い自分が浮かんだ。
艱難辛苦の果てに築かれた上様の世が、
いずれ若殿の治世となる……
清々しい心根のあの若殿の世に……
上様が、皆々が、
願ってやまないその日の為に、
砂塵の如きこの身でもお尽くし申し上げる!……