第416話 三人の夜(3)夢の菩薩

文字数 457文字

 誰も何もかもが叶うわけではない……
叶わぬことこそ多きがこの世……
 上様とても望まぬ争いに身を晒し、
幾多の悲しみを経て今に至っておられる……
 若き殿でさえ、松姫様との別れ、
長島一向一揆征圧戦での御連枝衆の死、
お辛い出来事が……

 弟達の寝息に誘われ、仙千代もいつしか眠りに落ちた。
 夢で観音菩薩が微笑んでいた。
 儀長城に程近い矢合(やわせ)観音だった。
 銀杏(いちょう)の葉を掬っては投げ、投げては掬い、
童が一人遊びをしていた。
 あの遠い日は夢のような一日で、
夢の中の童となった仙千代は無我夢中で黄金の葉と戯れて、
海辺の村のただ万見仙千代だった。

 目覚めた後、仙千代は、
いつになく爽快な心持がして、
夢のお告げか菩薩の加護を身近に感じ、
尾張の矢合に向かって手を合わせ念仏を唱えた。

 夢は今や一介の万見仙千代ではなく、
信長の最側近としての立場を却って強く自覚させた。

 「おはようございます!」

 「入室致します!」

 銀吾と祥吉だった。

 信忠主催の茶会の今日、岐阜の空は蒼天で、
白銀を頂く山々が冷気にくっきり映えていた。

 

 




 


 

 

 

 
 
 


 

 
 

 
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