第313話 長良川畔(7)岐阜城の呪い②

文字数 823文字

 「ほう?呪われて?」

 「この城は砦らしきものとして、
鎌倉あたりから歴史があるそうじゃが、
本格的に整えられたのは亡き斎藤道三公。
 井ノ口にあったこの山はやがて稲葉山城と呼ばれ、
斎藤家の居城となった。
 道三公は隠居を決めると目と鼻の先、
鷺山(さぎやま)へ移り、その居館で以降過ごした」

 鷺山は長良川を間に挟んで岐阜城の北西にあり、
美濃の平野にぽっかりと、
小ぶりな椀を伏せたように佇んでいた。

 「鷺山の御屋敷でお育ちになられた故に、
今も鷺山を名乗っておられるのじゃな、御方様」

 「道三公は嫡男 義龍公と不仲になると、
二人の息子を殺害された上、
御自身も長良川畔で義龍公に討たれ、世を去った。
 生前、一度きりの邂逅であったとはいえ、
道三公は上様の天分を見抜かれ、
国譲状を(したた)め、遺言とされた。
 美濃を上様に譲るという思い、
生前これを果たせず、無念の討死となったことで、
岐阜城の呪いと言う者が居るのだそうだ」

 「確かに……父は子に命を奪われ、
父を殺めた義龍公は病に沈み、
その後を継いだ嫡男 龍興公は上様に敗北し、
北陸へ流れ、戦死……」

 「そして此度、於艶様じゃ」

 「上様は叔母上であろうとも磔に……
いや、止めておこう。
 兵刃(へいじん)を交えれば親も子もない。
それが乱世」

 「処刑はいつになるのかの。
準備は進んでおる。
 野次馬も大勢出るじゃろう」

 あらためて、呪いという言葉は衝撃で、
やがて仙千代は全身の血が逆流し、
顔がかっと熱くなり、
その実、身は固まり、動けなかった。

 呪い?岐阜城の呪い?
道三公、義龍公、義龍公の二人の弟君、
龍興公、於艶の方様……

 そこで戦慄が走った。

 岐阜城といえば、続くのは上様、
そして若殿ではないか!……
 何と無礼な!何と不吉な!……

 家来でありながら礼を失い、
興味本位の切口でそのような会話を
今日この日この場で交わした二人を
八つ裂きにしてやりたい憤怒があった。
 だが老いて尚、過重な心労にある於葉を思い、
ここは一旦堪え、騒ぎとすることは耐えて忍んだ。

 
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