第212話 北陸平定戦(4)越前へ④

文字数 516文字

 仙千代の指摘通り、
従者達は残暑の厳しい陽を浴びて、
戸口に待っている。
 朝の鍛錬で天守から降りた信長は、
思い付いて万見邸に立ち寄ったのだった。
 邸の庭から回って覗いた仙千代は一心に筆を走らせ、
真剣な眼差しが凛々しくも清らかで、
信長の何もかもを満足させるこの存在が、
遠からず巣立ち、(つま)を娶って子を成し、
長秀、利家、秀政のような武将となっていくかと想念すると、
頼もしくも寂しさが一瞬、湧いて、
仙千代の邪魔立てになると知りつつ、
つい揶揄(からか)い、戯れてしまった。

 「確かに。では行くぞ」

 「そうなさいませ」

 身体の向きを正して作法通りに平伏し、
仙千代は見送った。
 仙千代と過ごす一時(ひととき)は心地好かった。
 
 志多羅・長篠の戦が終わり、
東濃では信忠が、
初の総大将戦として岩村を攻略している。
 信長もまた次の大戦が待っていた。
 長島で数万の信徒を喪う大敗を喫しながらも
信長へ刃を向ける本願寺顕如は、
北陸の冬将軍に不慣れな柴田勝家を苦しめ、
既に二年が経過していた。
 援軍は随時差し向けていたものの、
討っても討っても湧いて出る一向門徒に果てはなく、
勝家軍の消耗は限界に達しつつあり、
諸情勢を鑑みた信長は大軍を率い、
自ら平定に向かうこととした。



 



 

 

 

 

 


 


 
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