第340話 山口座(4)勝丸の談②

文字数 674文字

 今日は仙千代、竹丸、三郎、勝丸の他、
越前で柴田勝家の与力となっている佐々(さっさ)成政の甥で、
信忠の馬廻り、佐々清蔵も居合わせていた。
 
 佐々家は近江源氏を源流とする武家で、
はじめ、尾張守護家の重臣であったが、
先々代、成宗の代から織田家の家臣となって、
信長が家督を継いだ後の混乱で幾人もの戦死者を出しつつも、
一貫して信長を支え、
信長は祖父の代から続く佐々家の忠節、
また武辺への邁進ぶりを心恃(こころだの)みにして、
強い信を置いていた。
 清蔵はつい最近、伯父である成政の娘と所帯を持って、
信忠の親衛隊としていっそう励む日々だった。

 「何じゃ、勝丸。歯切れが悪く。
顔色も冴えぬではないか」

 と、清蔵。

 「はい」

 勝丸は否定しなかった。

 「身に余る殿の御厚情、
山口梅之丞はたいそう有り難がったのではないか」

 と、仙千代。

 「それはもう梅之丞は涙を流さんばかり。
金子(きんす)も金子なれど、
殿の御墨付きを得たことが何より有り難く、
心強いものがあったでしょう。
 旅の一座は道中、危険が無いではなく、
また(いや)しきものだとして嫌がらせも少なからずと
聞き及びます」

 竹丸も加わった。

 「それが殿のお褒めを頂いたとなれば、
行く先々で有力者の庇護を受け、
嫌な思いをすることも確実に減り」

 「それは確かにそうなのです。
なれど、先だっての梅之丞の話、
要は小弁と申すあの禿童(かむろ)について、
続きも裏もあったのです」

 いつも朗らかな勝丸の心なしか打ち沈んだ様子に、
誰もが次の言葉を待った。
 が、仙千代がふと目を遣ると、
それこそ勝丸以上に明朗な三郎が、
今は話を興味の外だと言わんばかりの顏で、
仏頂面を隠さなかった。

 

 



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