第67話 岩村城攻め(11)梅雨の青雲③

文字数 704文字

 (いにしえ)の時代、雄略天皇が、
家臣を全国に派遣した一族の本拠地の名に因み、
名乗ったのが長谷川一族の(かばね)の始まりだといい、
長谷川家は木曽川の北方という地に
知行を持った古い家柄だった。
 自領地に尾張の西端と美濃の東端を繋ぐ、
大きな渡しがあって、
長谷川家には財力があり、
その財力も信長が長谷川家を重んじ、
信頼してこそのものだった。

 「それよりも菅屋様、堀様には感服したものだ。
お二人からすれば、
未だ青い後進が抜擢されたのを寿(ことほ)いで、
心からの激励をされた。
堀様に至っては、
側近団の力の見せどころであるとも言われた。
まさしくその通りだ。
大和の寺社の底意地悪さに根負けし、
仙が尻尾を巻いて逃げ帰ってきたならば、
我らの名折れでもある。
せいぜい(ばん)様をお支えし、
御役に立ってくることだ」

 多くの者が仙千代と竹丸を無二の友だと見ていて、
仙千代自身、もちろん竹丸への友誼の心は厚い。
 しかし、四年前の儀長城で、
ギンナン(まみ)れの着物を着替えさせてくれたあの日以来、
自分は助けてもらうばかりで、
何も返していないのではないかと(よぎ)った。

 「竹に何もしておらぬの、儂は。
迷惑をかけはするが、逆は無いの……」

 竹丸は書状を片付け終えると、
あっさり、答えた。

 「そうだな」

 涼しい顔でそう言われると、
殊勝な物言いをしたことが何故だか損したような気になって、
仙千代は頬を膨らませた。

 「竹!ひどいではないか。
儂だって友の力になりたいという気概はあるのだ。
その思いはここに、(しか)と!」

 仙千代が胸を張り、叩いて見せると、
竹丸は笑った後、真顔になった。

 「仙千代。友は助け合うものではないぞ。
助け合いもするが、何もなくとも友は友だ。
なればこそ、友なのだ」

 

 




 

 


 






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