第293話 岩村城 落城(3)処断③

文字数 691文字

 国のすべての城で最も高い位置にあり、
堅牢な石垣と深い霧で守られた岩村城は、
鎌倉時代初期に幕府の御家人、遠山氏によって築かれた。
 遠山家は武家の名門として長きにわたり威勢を誇っていたが、
暫く前より、
東濃各地の一族は当然のこと岩村の一門宗家さえ、
新興織田家に降りることを良しとする者、
長い歴史を重んじて武田と共にあるべきだとする者、
両派に分かれ、この十数年はいつしか、
織田・武田の仲介者であったはずの立場を失い、
巨大な二家の勢力の狭間にあって草刈り場の様相を呈し、
ある時期は武田の城、
ある時期は織田の城となり、
岩村は遠山の城ではなくなっていた。

 信長にとり叔母にあたる岩村殿、
つまり於艶の方(おつやのかた)は信長と齢が近く、
美貌揃いとされる織田家の姫の中でも
特別美しさが世に聞こえた女人で、
艶姫を知っている堀秀政が岩村殿を語る際、
微かな含羞を帯びているのに気付いた仙千代は、
秀政には親のような世代ではあるが、
艶姫は憧憬の人であったかと想像せぬでもなかった。

 初の婚姻で美濃 斎藤家の宿老、日比野清実(きよざね)に嫁いだ艶姫は、
斎藤家が父子、兄弟で争い、混乱を極める過程に於いて、
甥である信長に清実を討たれ、後家となった。
 次に織田家の家臣に嫁すも、死別とも、
遠山家に輿入れする為、離縁させられたともいい、
三度目の夫、遠山景任(かげとう)病没後、
武田の重臣、秋山虎繫に岩村城を攻められて、
今ではその(つま)となり、
六大夫(ろくだゆう)なる幼い男児が居るとされていた。

 虎繁、艶、六大夫の所在を訊ねられた池田元助は、

 「使者として城へ入った塚本小大膳が、
秋山、及び岩村殿と面談し、
助命嘆願を持ち帰り、総大将は受諾されました」

 と伝えた。
 


 
 
 

 

 


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