第225話 北陸平定戦(17)青と赤の炎⑪

文字数 718文字

 朝倉義景、浅井長政、比叡山延暦寺、
そこへ石山本願寺まで加わって、
信長を絶命の危機に陥れ、
多くの兵に加え、
弟、重臣、忠臣を喪う結果となった志賀の陣は、
員清(かずきよ)の手引きが大きな役目を果たし、
信長を追い込み、
果ては実戦で信長の首級が狙われた。

 大湖(おおうみ)の権益は、
古来より湖畔の堅田衆が国教とも言われる延暦寺と結び付き、
手にしていたが、
堅田の衆は現実的で、
信長の時代を予見すると軍門に下り、
新たな支配者との協調を目指した。
 堅田衆は員清と親しくあったが、
員清の不審な動きを察知して、
長秀とのやりとりで随時、報告をあげていた。

 温厚でならす長秀もけして公家や商人ではなく、
筋金入りの武将であって、
同時、信長への崇敬は、
誰もが認める無双の人でもあった。

 北庄(きたのしょう)建屋(たてや)では、
城普請の槌音(つちおと)が響く中、
信長が、

 「……さても、林員清。
如何しておる」

 と問うと菅谷長頼が、

 「奉公人を動員し、
石運びに精を出しております」

 論功行賞には時期尚早だが、
側近のみのこの場では
武将達の(いくさ)働きが話にあがった。

 「ふん、成程。よう働くな。
が、その配下と五郎左や明智、
羽柴の配下が大湖(おおうみ)で時に小競り合いを
起こしておるのであろう?
今も如何なる心持ちで石を運んでおるのか。
此度は流石に参戦したが、
明智が呼ぼうと姿を見せぬかと思えば、
命じた国境防備を怠って、
明智の家来が慌てて向かったこともあるという。
明智の与力に付けたはこの儂。
明智には却って気の毒なことをした」

 侍る仙千代が耳を澄まさずとも、
信長の声が冷ややかなのは明らかだった。

 「偽の忠節は毒でしか有り得ませぬ」

 と言う長秀も眉ひとつ動いていない。
 長秀の家臣として居合わせた牛一こと、
太田又助信定がごくりと唾を飲み込んだ。
 
 
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