第143話 相国寺 寝所(1)抵抗①

文字数 634文字

 信長は万事を裁断し、すべて自身が決定し、
意志を貫いた。
 ただ、信を置く相手であれば、
耳を傾けるべきは受け容れ、
無闇に拒絶するものではなかった。

 日々、お側でお仕えし、
上様の変化に儂は疎くなっていた……
 以前の上様は警戒心の強い御方であった、
今よりずっと……

 若き日の信長を見れば特に顕著に分かることだが、
思い立てば直ちに行動し、
縛られることを嫌い、
融通無碍、活殺自在がその本地というものだった。
 しかし、尾張統一の過程に於いて、
庶兄、実弟に命を狙われるという
壮絶な家督争いを経て、
仙千代が知った時の信長は、
尾張から美濃への道程であろうと、
例えば信忠を従えていても同道することはなく、
別隊列で時差をもうけて移動していた。

 次々に敵対勢力を打尽して、
幕府は滅亡し、
今や朝廷さえ信長の顔色を窺い、
親王、つまり次の帝は信長の猶子となっている。
 信長の栄華は頂点を極めつつあった。
 平行し、元来の性質で、
信長が少数での機動を好む振舞は増えていた。

 「何が不服か。押し黙り」

 いつも自在に振る舞う信長も
仙千代の気配の変化に気が付いた。

 「支配地は日々拡大し、
畿内とて、上様の御庭も同然。
()は確かにございます。
なれど丹羽様が仰せの通り、
上様は不二の御身ゆえ、」

 言葉が終わらぬ内に信長の声が飛んだ。

 「分別がないと申すか、この儂が」

 このような物言いをされて
平然としていられる者など居はしない。
 抱かれて背を(さす)られていた仙千代は、
さっと身を正し、褥の外へ出、頭を伏せた。

 
 

 

 


 

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